なぜ人間関係がこじれてしまうのか?人間関係のうまくいかなさを人格障害という観点から考える
1 はじめに
人格障害(パーソナリティ障害)というと、どのようなものなのかよくわからないけど、言葉だけは聞いたことがあるという方も多いでしょう。今回のブログでは人格障害(パーソナリティ障害)についてお話したいと思います。
2 人格障害(パーソナリティ障害)の歴史
人格障害(パーソナリティ障害)の歴史を振り返るうえで、色々な人格障害がある中で代表的な境界性(ボーダーライン)人格障害について説明していきたいと思います。
フロイトが精神分析を始めた時代には、精神疾患は神経症と精神病に大きく分けられていました。しかし境界性という名前がついているとおり、精神分析を始めたフロイトの時代から、神経症とより重い精神病との間にある病気の形が指摘されていました。代表的なものとして例えば、「かのような自己(アズイフパーソナリティ)」などがあります。しかししばらくはこの間にある病気をどう定義していくか、決定的な見解が出てきませんでした。しかし以下に紹介するカーンバーグの理論によって境界性人格障害の特徴が明らかにされました。
3 オットー・カーンバーグの分類
現在の精神科治療は、薬による治療が重要な役割を担っています。しかし精神疾患に薬が用いられたのは1950年代に入ってからでした。それまで精神疾患に効く薬はなかったのです。それゆえ薬を使わない精神分析による治療は精神疾患の治療法として大きな影響力を持っていました。また第二次世界大戦のドイツではユダヤ人が迫害されたことから、ヨーロッパで精神分析を行っていた医師たちは迫害を逃れてアメリカに渡った人たちも多くいました。アメリカに渡った精神分析を行う医師が、まだ薬のなかったアメリカの精神科医療に向かい入れられたため、精神科治療はすなわち精神分析となりました。

もっともその後精神分析の評判は徐々に低くなっていったようです。それは精神分析を行う医師の態度が権威的すぎる。あるいは例えば自閉症の原因を冷蔵庫のような冷たい、愛情に欠ける育児を行った母親にあるというような理論がおかしいと批判されたからでした。この凋落に拍車をかけたのが薬の登場と言われています。すなわち薬での治療が効果を上げ、精神疾患は脳の病気と考えられるようになりました。反面精神分析の理論は、それを証明する科学的根拠があいまいと考えられるようになり、精神科治療への影響力を失ていきました。
そのような精神分析のアメリカでの「凋落」に歯止めをかけたのが以下に紹介するアメリカの精神分析家オットー・カーンバーグの理論だと言われています。
カーンバーグの人格構造論
カーンバーグは、①アイデンティティの統合度合い②どのような防衛機制を使うのか?③現実検討能力の有無によって、神経症水準にある人、境界性水準にある人、精神病水準にある人の、それぞれの人格構造がどうなっているのかを明らかにしました。
A 神経症水準の人格構造
①アイデンティティは統合されている②抑圧を中心とした高次の防衛機制を使う③現実検討能力は保たれている。
B 境界性(ボーダーライン)水準の人格構造
①アイデンティティは拡散している②分裂排除を中心とした未熟な防衛機制を使う③現実検討能力は保たれている。
C 精神病水準の人格構造
①アイデンティティは拡散している②分裂排除を中心とした未熟な防衛機制を使う③現実検討能力が障害されている
以上のように整理しました。
4 境界性水準の人格構造の特徴
このように、境界性水準の人の人格構造の特徴は、③現実検討能力は保たれているが、②防衛機制が未熟であり、①アイデンティティが拡散していることがあげられます。
定義だけですと具体的なイメージは湧きにくいと思われます。そこで具体的に境界性水準の人格構造の特徴を見ていきましょう。
境界性水準の人格構造を持つ人は、対人関係で問題を抱えやすいといわれています。それは、②の防衛機制の使い方に原因があることが多いと言われています。防衛機制とは、ストレスがかかったときに無意識にとってしまうストレス回避方法を言います。境界例水準の人格構造を持つ人は、良いことと悪いことを統合してこころに持っておくことが苦手と言われています。なぜなら悪い自分や不完全な自分を認めてしまうと、悪い自分がよい自分までじわじわと悪い自分に変えていってしまい、すべて悪い自分になってしまうと感じてとても怖くなるからです。そこですべて悪い自分にならないように、悪い自分をこころから追い出します(分裂)。そして追い出した悪い自分は誰かに投げ込みます(排除)。そうすると、悪い自分を投げ込んだ人を「悪い人」だと思い込んでしまいます。そして「悪い人」ゆえに、「悪い人」は自分を攻撃してくると怖くなります。(迫害恐怖)。このように境界性(ボーダーライン)水準の人格構造を持つ人の特徴として、分裂と排除という防衛機制を主に使うことが挙げられます。

対人関係で問題になるのは、この分裂と排除を防衛機制として使うというメカニズムが起きているからです。悪い自分を分裂排除したので、残った自分は良い自分だけです。良い自分なので悪い自分を投げ込んだ人を「悪い人」だと責めたり攻撃したりします。職場などで悪い人にされた人は、責められ攻撃されるのでとても嫌な思いをさせられます。また職場の雰囲気がギクシャクし職場を居心地悪くさせてしまいます。一方で攻撃すると怖い悪い人から反撃されるのではと怖くなります(迫害恐怖)。怖いからさらに反撃されないように先制攻撃をすることもあります。職場などで激昂する人は、この迫害恐怖を恐れて先制攻撃として激昂している場合があります。
またこのように良いと悪いを一緒にできないことは、職場にも影響を及ぼします。職場の人たちも同じように良い人と悪い人に分けられてしまいます。例えば職場ではある職員から攻撃される他の職員はその職員に厳しく注意するなどの対応を職場に求めるでしょう。反対にその職員から良い人と評価された他の職員は、その職員をかばい、厳しい対応を求める職員を快く思えなくなってきます。そうなるとその職員をめぐってその他の職員同士に対立が生まれ、職場がギクシャクするようになります。そうするとその職場の居心地は悪くなり、生産性も落ちるでしょう。
このように境界例水準の人格構造を持つ人は、その人自身の対人関係を悪くするのはもちろん、その人取り巻く職場などにも悪い影響を及ぼしてしまうという点でも問題になるのです。
もっとも私たちはストレスが大きいとき、失敗を誰かのせいにして、「あんたのせい」と他人を責めたくなることがあります。このようなとき私たちも境界例水準の人格構造になっているのかもしれません。「かなりのストレスのもとでは、健常な人でも一時的に精神病的な反応を示すことがありうる。そしてかなり妄想的な統合失調症患者でも完全に意識清明のときもある(ナンシー・マックウイリアムズ パーソナリティ障害の診断と治療)」こう考えると境界例水準の人格構造の人とは、境界例水準の人格構造になりやすく、そこからその構造を修正することが難しい人と言えるのかもしれません。
5 人格障害(パーソナリティ障害)のカウンセリング 精神分析的心理療法の勧め
これまで見てきたように、人格構造が境界例の場合、良いと悪いを分裂させ、誰かに投げ込む(排除)ことが特徴的です。これは精神分析的心理療法のカウンセリングの場合にはカウンセラーを相手に再現されます。たとえば決まった時間にカウンセリングを終えるカウンセラーは冷たい人物と、自分のこころにある悪いものを投げ込む先になります。そして過去に自分に冷たい仕打ちをした人物を知らず知らずにカウンセラーに映し出し(投影)、その当時感じていた憎しみをカウンセラーに向けてしまうからです。このような過去の人物に感じた感情を、今目の前にいるカウンセラーに向けることを、精神分析を始めたフロイトは「転移」と呼びました。転移が生じると相談者はカウンセラーに生々しい感情が沸き上がります。過去に経験した感情を今思い出そうとしても、それは感情の化石であって、今感じるような生々しさにはほど遠いものです。しかしカウンセラーを相手にして、今感じている生々しい感情に触れることができるならば、自分の持つ感情の意味について考えることができるようになります。そうすれば自分のこころがどのようになっているのかを理解することができ、分裂・排除によって人間関係をギクシャクすることをコントロールできるようになります。
このように精神分析的心理療法のカウンセリングでは、境界例の人格構造の特徴が現れやすく、その特徴から人格障害で苦しんでいる方の問題解決に適していると思われます。当相談室では、精神分析的心理療法のカウンセリングを行っています。お困りの方はご相談ください。