とどまり続けるということ
鈴木大拙の本に「渾沌」の話が紹介されています。渾沌とは太古の中国の神様です。ある日渾沌に招かれ手厚くもてなされた南海と北海の神様は、そのお礼に目や鼻や口などがない渾沌が不便だろうと、渾沌に目などの穴を開けてあげました。すると渾沌は死んでしまいました。
「コスパ」「タイパ」という言葉がもてはやされているように、私たちは何かをしたらその見返りとして、与えたもの以上のものを即座に受け取らないといけないような雰囲気にのみ込まれているように感じます。しかし渾沌の寓話は、「コスパ」「タイパ」が悪いからもっと効率よく行こうよとすると、逆に「コスパ」「タイパ」が悪くなるということではないでしょうか?
カウンセリング、特に当相談室の特徴である「精神分析的心理療法」は、根本的に自分を理解することで今悩まされている問題のみならず将来の問題にも対処できる力とつけていこうとするものです。根本的な自己理解を目指すためすぐに効果が出るものではありません。その点では「コスパ」「タイパ」が悪いことになります。しかし即座に得られない中で、そこにとどまり続け自分を見つめ直していく。渾沌の話にあるように、その過程にとても得るものがあることに、我々は何千年前も前から気づいていたということだと思います。