アセスメント面接について 重り合わさったこころの軌跡を見つける作業

1 はじめに

 当ホームページに「カウンセリングのながれ」の中で「アセスメント面接」を載せています。多くの人にとってアセスメントという言葉は馴染みのないものでしょう。簡潔に説明すると、その方がカウンセリングを始められるときまで歩んでこられた人生をお聴きするものです。

 今回はアセスメント面接についてもう少し詳しくご説明します。

2 重なり合う土地の歴史的記憶

京浜東北線で品川から南下していると、海側の車窓にお寺が多いことが気になっていました。また大森あたりの陸側には「大森貝塚」の碑も確認できます。

 中沢新一「アースダイバー」を読むと、この京浜東北線沿いは縄文時代には海岸線だったようです。縄文人は海に面した岬を神聖な場所と考えていたそうで、海岸線だった京浜東北線沿いには縄文の遺跡もあるようです。さらに縄文人が神聖な場所と考えていた所は、それ以降の時代の人たちも同じように神聖な場所と感じていたようです。一例として「アースダイバー」に載っている芝の増上寺の話を紹介しましょう。増上寺には隣り合うように古墳が残されています。同じ敷地に縄文後期の貝塚も発見されています。時代が下って江戸時代に増上寺が作られ、近くには昭和になって東京タワーも立てられました。この東京タワーの建材には朝鮮戦争で被弾したりして使えなくなった戦車を鋳なおしたものが用いられています。つまり縄文人が神聖な・霊的な場所と感じていた場所は、その後の時代の人々も同じように神聖で霊的なものを感じて、宗教的・鎮魂的なものを作ったのだろうと中沢が書いています。

 私が月一回研修に行く四谷3丁目のことも同書に書いてあります。そこには有名なお岩稲荷があります。私は同書を読むまで研修を受ける近所にお岩稲荷があるとは知りませんでした。縄文時代にお岩稲荷がある場所は乾いた高台であり、四谷怪談の鶴屋南北はそこから下った湿った谷に住んでおり、縄文時代は入江だったそうです。鶴屋南北が四谷怪談の舞台にこの土地を選んだのも、中沢によれば縄文時代から続く記憶にもとづいているとのことでした。

 このように私たちは何気なく暮らしている土地も、無意識のうちに縄文からの価値観などを引き継いでいると言えるでしょう。

3 自分のことは自分で決めていると信じているが・・・

  例えば今日何を食べようかと考えたとき、よっぽどのことがない限り自分が食べたいものを食べていると思っています。好きになる人も自分の意志で好きになっていると思っています。あるいは就きたい職業も自分の意志が反映されていると思っています。このように私たちは何かを選ぶとき、それは自分の意志で選んでいると思っています。

このように、私たちは日ごろ自分の意志でものごとを決めていると信じています。どんなに疑っても今考えている自分だけは疑うことができないという、デカルトの考え方は我々現代人に強く影響を与えています(明治維新前の東洋的な考え方はまた違ったものと思われます)。だから好きなるのも、嫌いになるのも私たちが意識して判断を下していると信じてしまっています。

 しかし本当にそうでしょうか?例えば、友達の誰かが付き合う恋人に、これまで付き合ってきた恋人たちと何か共通するものに気づいたことはありませんか?そういえば自分も当てはまると気づかれた方もいらっしゃるでしょう。他にも好きになる人、嫌いになる人などにも共通する何かをきっと見つけられると思います。どうしてでしょう?それは自分の意志でないもの、つまり「無意識」のなせる業なのです。

 フロイトは、口を閉じても指先の動きが無意識を語り始めるといった旨書いています。つまり自分の意志でしゃべるのをやめても、無意識は意識をあざむいて語り始めるという意味です。私も行かなければいけない所なのにどうしても行きたくない気持ちが強い時、目的地とは反対方向のバスに乗ったことがありました。意識では行かなくてはいけないとわかっていても、行きたくない無意識に引っ張られ反対方向のバスに乗ったのです。このような現象は「失策行為」と名前が付けられています。皆さんも心当たりがあるのではないでしょうか?

 

4  アセスメント面接、重なり合う無意識を探索する

 それではアセスメント面接で何が分かるのでしょうか?前述の私の失策行為ですが、これを一回限りの無意識の表れとは捉えません。アセスメント面接では、このような一つの出来事から、カウンセラーとクライエントは一緒に「アースダイバー」となって、無意識に潜って行きます。私の失策行為で説明すれば、私が行きたくなかったのは以前怒られたことがあるからだとします。怒られるにはそれなりの理由があります。ですから今度は怒られないようにダメなところをなおしているにもかかわらず行きたくないのです。それは私の幼いころ心細い体験があっても誰も助けてくれないという経験が、意識的には忘れていても無意識が覚えていていることが影響しているのかもしれません。このように無意識の記憶を「アースダイバー」になってたどっていくことで、意識では分からなかった重なり合う無意識の歴史的記憶を理解することで、私たちは現在の行動を理解できるようになります。

 一方で例えば色々これまで困ったことがあったけど、何とか乗り越えていたというエピソードがあったとしましょう。なぜ乗り越えることができたのか?うまく人を頼ることができたからもしれません。「アースダイバー」になって無意識を潜って行くと、人を頼って甘えることができた幸せな思い出に行き当たることでしょう。

 アセスメント面接では、ポジティブなこと、ネガティブなことを全部含めて、その方の重なり合う無意識の歴史を「アースダイバー」になって探索することで、その人のこころのあり方を理解することを目指します。

もっともアセスメント面接の回数は3回から4回程度なので、すべての無意識の歴史が分かるわけではありません。たとえるなら、アセスメント面接でわかることとは無意識の歴史を書いた紹介状、あるは映画の予告編のようなものと言えるでしょう。しかしわしたちはこの紹介状を足場にして。さらに自分自身の無意識がどうなっているのか?それをこれからの本格的なカウンセリングで探索することができるようになります。

Similar Posts