知能検査の活用法 私たちが生きる上で大切な力とは?当相談室で提供できるカウンセリング
知能検査の活用法 私たちが生きる上で大切な力とは?
当相談室で提供できるカウンセリング
1、知能とは?
発達障害などを医療機関などに相談されるときに、ウェクスラー式知能検査(大人用はWAIS こども用はWISC)を受けることを勧められることもあるでしょう。
もっともウェクスラー式知能検査は結果を数値として示すため、その数値の高い低いをテストのように気にしてしまうこともあるかもしれません。私たちは目に見える、まさに数字のようなものを絶対的なものだと信じてしまう傾向があるからです。
一方で何を知能というのかは、様々な考えが言われており、統一された考えはないと言われています。ウェクスラー式知能検査でわかる知能は、ウェクスラーさんが知能と考えるもので、かつ検査をして結果を数字で表されるものに限られています。つまりウェクスラー式知能検でわかる知能は、人間が生活していくうえで必要とされる知能の一部と言っていいでしょう。それゆえ検査の結果の数値自体を気にするのではなく、その結果をどう生かしていくかという視点が重要になります。例えば学校で先生の指示が聞き取れないというとき、検査の数値を参考にして、目から見て理解する力(視覚情報)が強ければ、指示を絵に描いて理解するように工夫するように役立てることができるでしょう。

2、目に見えない数字で表せないが、生きる上でとても大事な社会的知性(SQ:social intelligence)
私の好きな本の題名に「ひとりでは生きられないのも芸のうち(内田樹)」があります。人の能力には限界がある以上、上手に人に頼り頼られて生きていく方がより豊かな人生を送れると思います。しかし人に上手に頼ることはなかなか難しいものです。なぜなら上手に頼るには、日ごろから良い人間関係を築く必要があるからです。このような人と気持ちを通じ合って良い人間関係を築く力を社会的知性(SQ)と呼ぶそうです。
人と人との気持ちのやり取りは、「無意識化で自動的に働く超高速回路のことで、私たちの行動の大部分、とくに感情にかかわる部分は、『裏の道』を経由する広範な神経ネットワークによって導かれる」と言われています。「対照的に、『表の道』は、理路整然と階段を踏んで意識的に働く。『表の道』の働きは本人も意識しており、ある程度コントロールもできる」(生き方の知能指数 ダニエル・ゴールマン)と言われています。良い人間関係を築くためには、意識的には気づくことができない能力によるものです。
ただ社会的知性は無意識での「裏の道」なので、ウェクスラー式知能検査のように検査で明らかにすることができません。現在は数字のように目に見えるものだけが存在して、目に見えないものは存在しないという風潮が強いように感じられます。例えば偏差値の高い大学出身の芸能人のクイズ番組。あるいは物の価値をお金で鑑定する番組などに人気があるように。それゆえ数値化できない社会的知性への関心は低いのかもしれません。
しかし私たち人間は良い人間関係を築きたいと願う生き物です。この良い人間関係を築くために必要なのが目に見えないが、人間が生きていくにはとても大切な能力、それが社会的知性なのです。

3、人間が生きる上で大切なものは目に見えない数字にできないものがある
以前のブログで紹介したエピソードですが、もう一度ここで紹介します。
日露戦争開戦前の東郷平八郎は、海軍大将の山本権兵衛から「運のツキがいい男」として、連合艦隊司令長官に推薦されました。あるとき東郷は同僚の軍人と街中を歩いていたところ、前方に馬を見つけ、その馬を大きく避けて通りました。同僚の軍人は「いやしくも軍人か」と東郷を臆病者のように責めました。責められた東郷は「万一馬が狂奔して怪我でもして、本務に障りがあれば、それこそ武人の本務にもとるでしょう」と応えたそうです。
私たちが意識できない(裏の道)。しかし、とても大切な人間の能力に「ニューロセプション」という考え方があります。「ニューロセプション」とは、「時として我々は、腹や心臓で何かを感じたり、『この状態は危険だ』ということを第六感で感じ取ったりすることを言います」(S・W・ポージェス ポリヴェーガル理論入門)。東郷は単に運のいい男ではなく、意識できない人間の能力を感じ取ることができたのでしょう。反対に体が発する信号をキャッチできない同僚の軍人には、東郷を臆病者か運のいい男としかとらえることができなかったのでしょう。
ところで護身術が取り上げられた動画を最近観ました。その動画である武道の達人が、敵に出会ったときに護身術を行うことはもう遅く、敵に出会わないようにこれから起きるであろう危険を察知して避けることが重要だと言っていました。武道の極意も、目に見えない体からの情報を敏感に受け取れるようになるということなのでしょう。
このように目に見えないが、私たちが生きるために重要な力、すなわち社会的知性やニューロセプションという考えに私たちはもっと目を向けるべきでしょう。
4、まとめと当相談室の取り組み
現在、目に見えるものを信頼する一方で、目に見えないものをかえりみない風潮が強いように思われます。しかし私たちが仲良く人とかかわることで精神的に豊かな生活を送るためには、目に見えない「裏の道」である社会的知性の力をよく勉強し自分のものにしていくことが必要になります。
また「ニューロセプション」として何かしっくりこないという感覚に耳を傾けることも重要でしょう。目に見えることを信用したい私たちは、何かしっくりこない感覚をなんとなく感じていても、人に迷惑をかけるから、学校に行かないと怒られるからと頭で考えたことを優先させてしまいます。そうするうちに心身ともに疲れ果ててしまうことも多いでしょう。
当相談室のカウンセリングでも「裏の道」である社会的知性や「ニューロセプション」など、こころの無意識を理解できる支援を提供しています。
もっとも人間は意識と無意識、すなわち「表の道」と「裏の道」の両方が必要です。私たちは意識や言葉で考える左脳と、無意識や感情を司る右脳の両方のバランスを取る必要があるからです。それゆえ意識、すなわち「表の道」である知能検査の結果をどのように活かすかという視点も重要になってきます。当相談室では、受けた知能検査を持ってきていただければ、その結果からどのように実際の生活に生かすことができるのかという視点でカウンセリングをすすめることができます。例えば、ワーキングメモリーが苦手と出ている場合、あらかじめ人前で話すときは話す内容を準備しておく。あるいは話すテンプレートをあらかじめ考え、シンプルに内容をどのように伝えるのかを考える。このような対策を知能検査の結果から一緒にカウンセリングで考えていくことができます。その結果、できない失敗するかもと緊張していたものが、この準備をすれば大丈夫だと思えるようになり、安心して臨めるようになります。
このようにアスペルガー症候群を含む発達障害でカウンセリングを希望される方に当相談室では、知能検査の結果を活かすことはもちろん、どのように人間関係を築いていけるのかという社会的知性の面も含め、トータルでどのようにすれば人生を豊かにできるのかという視点でカウンセリングを提供しています。