私たちは出来事に対して何か意味を見出さないと不安になる。認知の仕方と気分の関係性を考える
1 はじめに 出来事に対しての認知の仕方
ようやく猛烈な暑さだった夏が過ぎ、昼間でも秋の空気を感じることができました。当相談室では空気が澄んできたのか?秩父の山から、南は神奈川県の大山まで見渡せるようになりました。
また自宅近くではセミの鳴き声が止み、夜は秋の虫の声が響き渡るようになりました。そして彼岸花も咲き始めました。ところで春の桜の花はだれでもきれいと思いますが、秋の彼岸花は美しいととらえる人もいれば、真っ赤な花のいろや花びらの形から不吉なイメージを連想される方もいらっしゃるようです。昔は墓地に植えられたことや、別名の曼殊沙華がサンスクリット語で「天界に咲く花」という意味などから、あの世、死の世界を連想させることからも不吉なイメージを持たれやすいのでしょう。

しかし彼岸花の花びらは、生物学的な意味があって真っ赤なのでしょう。彼岸花自体に此岸を超えて彼岸に誘う力を生物学的に持っているわけではありません。すると彼岸花に対する不吉なイメージは私たちが勝手に抱いているだけだということになります。
2 出来事やものごとに対する意味づけが、私たちの気持ちや行いに影響を与える
このように私たちは出来事やものごとに対して、それをありのままに受け取ることができません。必ずと言っていいほど何らかの意味づけをしてしまいます。
例えば、朝職場でちょっと私とは関係が微妙なAさんに挨拶をしたところ、無視されたとしましょう。この出来事に私は、Aさんとの関係が微妙なこともあって、Aさんとのやり取りをいろいろと思い出し、きっとあのことで怒って私を無視しているんだと思い当たります。あ~、とうとうAさんを怒らせてしまったと、とても憂鬱になって仕事が手につきません。
私はAさんのふるまいによって気分は憂鬱になり、さらには仕事のパフォーマンスも落としています。さらにはAさんのふるまいを繰り返し思い出し、最初は自分が悪かったと思っていたものが、無視するAさんが悪いと決めつけ、Aさんとの関係がこじれてしまう可能性もあります。
しかしもしここで私がAさんにどうして私を無視したのかと尋ねることができたらどうでしょう?多くの場合は、Aさんは体調が悪くて私に対応する余裕すらなかったと答えるかもしれません。あるいはAさんはとても気になることがあって気もそぞろになっていたために、私の問いかけに気が付かなかったと答えるかもしれません。もしこのような理由が確認できれば私の気持ちはどうでしょう?「私はAさんに嫌われていたんじゃなかったんだ」と気分も晴れるでしょう。
出来事、私のあいさつにAさんが応えなかったという事実は変わりません。しかしその事実を私がどう受け止めたのかによって、私のその後の気分や仕事のパフォーマンスに大きく影響していています。このように私たちは出来事をどのように受け止めるかが、私たちの気分や行いに大きな影響を与えているのです。
3 意味付けを替える作業とそのメリット
私たちは常に出来事やものごとについて意味づけをしています。ただ出来事に対して意味づけがズレ過ぎていると、ズレた分だけ気持ちがつらくなりすぎたり、仕事や勉強が手につかなくなったりと、私たちにとってデメリットが多くなります。
そこで自分がしている意味づけが果たして出来事に沿っているのか?を確認する作業が必要になってきます。ただ難しいのは「なくて七癖」というように自分の考え方の癖は自分にはあまりに長年に渡ってしみ込んでいるので、なかなか出来事と意味づけのズレを正しく判断することは難しくなるということです。
最近気分がすぐれない、あるいは仕事や勉強がなにかに気を取られてはかどらないということがありましたら、もしかすると出来事に対する意味づけがズレている影響かもしれません。そういう時は当相談室で一緒に出来事に対するズレを修正していきましょう。

この作業で得らるメリットは、①出来事に沿ってなるべく客観的な意味づけを行えるようになることで、ご自身の気分の落ち込みを回復させ、仕事や勉強に再び取り組めるようになること。②ご自身の意味づけのパターンを分析することで、ご自身の考え方や行動のパターンを理解し、将来においても客観的な意味づけができるスキルを身に着けることができること。③自分自身で困難を克服したという体験を通して、何かを試みれば結果が変わるだろうという確信、自己効力感が身につくことで、初めて挑戦することに対して前向きにとらえることができる。等の効果が期待できます。