引き算思考にならないために視覚化の利用 認知的不協和理論を理解して自分にメリットになる考え方を身につけよう。
引き算思考にならないために視覚化の利用
認知的不協和理論を理解して自分にメリットになる考え方を身につけよう。
1、はじめに
私たちは小さいときから引き算で評価されることが多かったために、どうしても引き算の考えが染みついています。例えばテストで87点を取っても、「87点なんてすごいね!」とは自分でも受け取れず、あと13点取れば100点だったのにと悔しがります。どうしても引き算をしてしまいます。

2、現実よりも引き算思考を優先する 認知的不協和理論
ところで私は数年前健康診断でメタボリック症候群と判定されました。それまでも太っているとは気が付いていたのですが、具体的な数字を突き付けられると、食事に運動にと真剣に取り組むようになりました。
私たちは自分で立てた予測、想像(私の経験のように、メタボであるはずがない)と矛盾する情報(メタボであるとの数値を突き付けられる)に向き合わされるととてもストレスを感じるようになります。それゆえ私たちは不快なストレスから逃れようと、この矛盾を解決しようとします(レオン・フェスティンガーの認知的不協和論)。一つは上記の私のように現実の方に修正して運動するという選択があります。健康を目指すという点で自分にとってメリットとなる選択と言えるでしょう。
一方で自分の立てた予測、想像の方を優先することも多いと思われます。私は公官庁でメンタルヘルスの不調で休職された方の復職支援の仕事をしていました。誰にとっても復職を前の前にすると不安がつのります。それは試験を前にした受験生も同じでしょう。なぜなら今の自分の状態で復職できるのだろうか?今の自分の実力で合格するのであろうか?と心配し、今の状況なら復職・合格できないだろうと自分で立てた予測・想像に至る点で同じだからです。この時自分の予想・想像に合わせてしまうと、復職や受験に失敗しそうな証拠を集めようとします。例えば出勤訓練の時にお腹が痛くなった。模試でE判定を取ったなど。そしてだからきっと復職や受験に失敗するに違いないと思い込もうとします。他方で復職の訓練課程や受験勉強でうまくいったこともきっとあるはずなのに、引き算の思考の私たちは、矛盾を解決する方法として引き算、すなわちこれをやらなかったから失敗するだろうという予測・想像を優先させてしまいがちです。
3、引き算思考にならないために、目に見える形にする
私が復職支援をしていた時、認知行動療法で使われる活動記録表を書いてもらっていました。活動記録表とは、縦に24時間を1時間ごとに区切られた欄があります。横の欄は一日ごと一週間分になっています。そこに何曜日の何時に何をしたかを記入していきます。復職に向けた話し合いがもたれ、復職に向けた準備を進める段階でこの活動記録表を書くことを始めてもらっていました。書き始めた当初は、傾向としてシンプルで空欄が目立ちます。しかし徐々に空欄は減っていき、書き込んだ行動も単に何々をしたという記述からより詳しい書き方に変わってきます。復職前には余白が睡眠時間くらいになり、そのほかの欄は詳しく書き込まれるようになります。

上記のように復職前に不安になり、この状態では復職できないと色々できないことをあげてこられる方がいらした場合、私はこれまで書き溜めた活動記録表を見てもらいます。すると最初の空欄が目立つものから徐々に書き込まれた文字の量が増えて行く、すなわち自分が復職に向けて心身の状態が充実してきたことが一目瞭然にわかります。このように目でみることで、私たちは引き算思考から解放され、はじめに立てた予測・想像が間違っていたと気づきます。そして文字で埋め尽くされた活動記録表に表されているように、復職に向けて確実に歩んでいる現実を受け入れることで、矛盾を解決し復職できないだろうと不安をしずめることができます。
またどんな些細なことでも「できたこと」を書き留める「できたことノート」を作ることをお勧めしていました。ここでも私たちは引き算思考がこびりついていて、客観的にはできている素晴らしい行動を「こんなこと当然」と引き算で自分の行動を評価してしまいます。そこでどんな些細なことでもできたことを書きとめるように伝えていました。そして復職される方と私が一緒にそのできたことノートを見て、ご本人が当然のことと考えていたことが復職に向けてとても重要な心身の回復状態を示すものであることを伝えていました。行動活動表と同じく、書留めた文字として眺めると、私たちは自分の心身が回復していることを納得するようになります。数字で突き付けられるとメタボを認めざるを得なかった私のように、大事なのは文字や数字として目に見えるようにするということです。
4、独りではなかなか気が付かない
ただ引き算が染みついている私たちですので、誰かにできたことを「これってすごいことだよ」と言ってもらわないとなかなか気づかないものです。私が「これってすごいことですよ」とお伝えしても、皆さんの最初の反応は「やって当然のことだから、できたことにならないんじゃないですか?」というものです。ですから根気強く自分で気付くことができない「できたこと」を示してくれる人が必要になります。

そこで「できたこと」を示す人としてカウンセリングを体験されることもきっと役立つ体験になると考えています。「これってできたことにしていい?」と確認できる機会があると、きっと「こんなことでもできたことにしていいんだ!」と驚く体験になると思います。